序盤にオリックスは4点リード
1回裏、吉田のツーランで先制するという幸先の良い開幕だった。
3回裏、先頭の福田から4連打が飛び出す。リードは4点となった。そして尚も無死13塁という状況、ここであと一点押し込めるかどうかという場面だった。
先発の東浜は降板となり、二番手で出てきたのが森。
この森が、見事な火消しで無失点という快投。
このあと一点を押し込めなかったことが、この試合をもつれさせる要因になるとはこの時は思ってもいなかった。
誠に野球は筋書きのないドラマである。
4回表に怪しくなる雲行き
4回表、田嶋は連打で無死13塁のピンチを作ってしまう。
ここは一点やっていい場面だ。最高の形は二死と1点の交換だというケース。
打席には柳田。しかしここは田嶋の勝ちでボテボテのサードゴロ。
これを宗が本塁に悪送球で1点を失い、尚も無死23塁という状況となってしまう。
こうなった以上、「1点はやってもいいが2点やったらもつれる」となってしまう。ヒットで出た三走はともかく、エラー出塁の二走を帰還させてはまぎれると思いながら見ていた。
ところがその二走の帰還が成されてしまう。この試合はまぎれた。
もう何が起こってもおかしくないという試合になってしまった。
1点リードしているのはバファローズ。しかし試合の流れはホークスへと傾いていた。
粘るソフトバンク救援陣についに打線が呼応する
ソフトバンクは先発の東浜を2回で諦め、3回は森が見事な救援。
4回は泉、5回は甲斐野を投入してバファローズの打線を封じ込めを計った。特に5回の甲斐野はクリンナップとの対戦で、これを見事に押さえてみせた。
オリックスは、リードはしている。
しかしそれはスコアボード上でそうであるというだけで、流れとしてはオリックスが押されている。6回表。今宮から始まる──つまり打順はクリンナップ。
一つのポイントになるな、と。ここで先頭を出さなければ・・・
ツーベースかーい!
あ、やばい。ここだ。このイニングだ。汗がドブドブと流れる。
現地では、画角が違うので田嶋の状態がよく分からない。四球を出して無死12塁とした所で比嘉にスイッチとなった。
リードは1点。無死12塁。ここから継投。
ここは「一点もやらないでほしい」というのが指揮官の率直な気持ちだろう。
バッターの川瀬は送りバント。
1死23塁にされたら、比嘉としては「失敗」となる。
だが川瀬にしてもフォースプレイのある難しいバントだ。
守備側の理想は3塁封殺で1死12塁だが。
2ストライクが入る。
これでバントがなくなったかも知れないし、スリーバントも選択肢として消えてはいない。
バントとヒッティングの両面待ち。
ここで川瀬はヒッティングに切り替えて、前進守備の頓宮のミットを弾くヒットとなった。
しかし比嘉としては打ち取った当たりだった。微妙な勝負の綾が、川瀬の当たりをヒットにした。そう見えた。
だが状況としては無死満塁。
ここで踏ん張れないと試合が壊れる。
オリックスベンチは宇田川を投入
ここは三振が欲しい。この場面で宇田川を送り込むほど、オリックスベンチは宇田川を信頼している。
バッターは中村晃。
簡単に2ストライクまでは追い込むが、そこからが中村晃である。
2-2からのフォークを見事に捉え、同点打を叩き込む。
尚も無死満塁。
そして。
牧原への2球目はバウンドが難しく捕逸となり、ソフトバンクはついに逆転する。
尚も無死23塁である。
しかしここで牧原を三振に仕留める。やっとこのイニング一死が取れた。
だが尚も1死23塁でピンチは続いている。
しかし続く柳町の2ゴロで本塁突入失敗。2死13塁。そして甲斐は左飛でこの回は終了した。
さて。
私はこの時、オリックスは3回に5点目を取れなかったことがまぎれを呼び込む一因になったと思いつつ、ソフトバンクも6点目を取れなかったという事が強く印象に残った。
ソフトバンクも、もう一点を押し込めなかった。
この試合はまだ分からない。勝負の針がどちらに触れるか、勝利の女神がどちらに微笑むのか、そういう部分が際どいところで揺蕩っている。
6回裏、粘るソフトバンク救援陣
6回裏、オリックスはリードオフダブルからの送りバントで、1死3塁という状況を作り出す。代打にT-岡田。
ここで追いつけなければオリックスは厳しい。
しかし津森のスライダーが高めに浮いたのが災いし捕邪飛に倒れる。
参ったな。
ソフトバンク投手陣も今日は気迫が違う。
続く若月は四球を選ぶ。
二死13塁という場面。ここで福田に対して、藤本監督は左の嘉弥真を投入。
まさに総力戦である。
嘉弥真は期待に応えて福田を左邪飛に打ち取り、オリックスからすると1死3塁の状況から得点できなかったという状況が残ってしまい、この時点で勝負の針はソフトバンク優勢へと振れていた。
オリックスも勝ちパターンで応戦
7回表、山崎颯を投入。
宇田川と山崎颯は今週から明確に勝ち継投に組み込まれている。
ソフトバンクは打順よく1番・周東から。二死からランナーを背負うもこれを抑える。
8回表。ここも1点ビハインドだが、オリックスベンチは勝ちパターンの阿部を投入。
両軍、1点ビハインドくらいなら勝ちパターンをつぎ込んで行く。そういう試合。
しかし、その阿部も、簡単にはいかない。
先頭出塁からの送りバントの処理で、送球が走者に当たってしまい、無死13塁という状況となってしまう。
8回表。ここで2点差にされてしまっては──
この難しい局面で、阿部は。
柳町をセカンドゴロに仕留め本塁送球、これが挟殺プレイとなりタッチアウト。
この挟殺プレイの間に進塁を許さなかったのが大きく、1死12塁と状況が緩和される。続く甲斐を左飛に、周東を左邪飛に打ち取り無失点で切り抜け、阿部はトレードマークとも言える大きなガッツポーズを出した。
1点差。
最小得点差を守り抜いた。9回に吉田に回るかどうか──
下位打線に得点力がないと思っているわけではない。だが、8回に6番から始まった打順、9回裏に吉田に回るか否か、その意味が大きいのはそれが最後の望みだからだ。
だから一人でも二人でも塁に出て──と考えるが、思うようには行かないのが野球というもので、この回は三者凡退に終わってしまう。
9回裏に吉田まで回すためには、二人の出塁が条件となってしまった。
えー? モイネロから?
これはいよいよ追い詰められたかな。
9回表。望みを繋ぐために無失点が条件となるマウンドで、二人のランナーを出しながらもワゲスパックがゼロで抑えた。
オリックスの救援陣が、粘りに粘って、どうにか1点差という状況を守ってきた。
ソフトバンクの救援陣も同様に、粘りに粘って、1点のリードを守ったまま守護神に繋いだ。
そしていよいよ佳境の9回裏に入る。
球場アナウンスは台風が交通機関に影響を及ぼしていると幾度となく警告していた。
9回裏、諦めないオリックス打線
1点取れば延長。2点取ればサヨナラ。0点なら勿論──負けである。
思えば4点リードから始まって、いつの間にかこんな事になってしまっている。
ソフトバンクは、当然、絶対的守護神のモイネロを投入してきた。
このモイネロから、先頭は若月。
若月がファールで粘りながら、四球をもぎとる。
同点のランナー。しかも無死。
ベンチへのガッツポーズが印象的だった。
その次である。
福田が初球のストレートを見事に左前に弾き返し──ここで雰囲気が変わった。
無死12塁から宗がバントを試みるもこれはフォースプレイでサードがアウトになってしまう。
野球というのは本当に何がどう作用するか分からない。
この送りバントは失敗して、本当に悪かったのだろうか?
というのも──続く中川が三振し、吉田の場面で二死12塁と、通常申告敬遠があり得ない場面で吉田に回ってしまったのである。
無死12塁が二死12塁となった。しかしそれはそれほどオリックスにとって悪いことだったのか?
吉田は、初球をライト前に弾き返し、ここに来て試合を降り出しに戻してしまったのである。
続く頓宮は大飛球も捕球されスリーアウト。試合は延長へ突入する。
両軍譲らず延長へ
10回表は本田仁海。16日日ハム戦で投げて以来になるが、ここのところは本当の意味で休めていたはずである。つまりブルペンで肩を作るということもなかったと思う。
本当にそういう事なのかは分からないが、ともあれ本田の肩は軽かったように見えた。
トントントンと、ワンツースリー。これで攻撃のリズムが良くなった。
一方のホークスは、延長となった時点で投手はレイと田中しか残っていなかった。これは東浜が2回でKOされ、3回は森が投げて、つまり最初の3イニングで投手2枚を使い切っていた事がソフトバンクにこの事態をもたらした、という事になる。
レイは14日の西武戦で投げていた。しかしそれ以降もベンチには入っていた。
その期間、ブルペンでどの程度肩を作るということがあったのか、実際のところは我々からは見えない。
どういう調整をしているか分からない。3イニングいけるのかどうか。
レイにアクシデントがあったときのために、田中正義は最後まで残しておかないといけないだろから、少なくとも2イニングはレイに託すしかない。
先頭の西野がレフト前に落とし出塁。サヨナラのランナーである。
続く太田が送りバント。
ここで、ついに──ソフトバンクにミスが出る。
失策はオリックスが2で、ソフトバンクは0だった。この緊張感の中で、ここまでノーミスというのが凄い事なのだが、終盤でソフトバンクにも一つくらいはミスが出るんじゃないのというような事を7回くらいからぼんやりと考えていた。
それがここで出た。
ファーストに悪送球となり無死でサヨナラのランナーがサードまで進むという事態に。
一打サヨナラ。ヒットじゃなくていい、外野フライでもいい。なんなら暴投や捕逸でもいい。
球場のボルテージが上がっていく。
野口に代打を出すだろうか。ショートは大城がいるので問題ない。
しかし左の代打は残っていない。スイッチの佐野はいるが。
野口のままいくらしい。
ここでソフトバンクは申告敬遠で満塁策を取った。
これでもう、四球でもサヨナラである。
ボール球は3回しか使えない。
攻撃側は攻撃側で、満塁とされてしまうと本塁フォースプレイとなるため、スクイズの成功率は下がる。
前進守備のホークス内野手が殺意のオーラをまとっている。私の席からはファースト中村晃の表情が良く見えたが、なんかもうすれ違いざまに切られるんじゃないかって、そんな形相。
絶対に内野は抜かせない。何者であろうと、切る! そんな感じ。
中村晃怖え、と思いながら見ていた。
打席には伏見。
カウント1B2Sのところで、三走の西野に背番号41が走っていく。
佐野。
一拍遅れて、球場に代走・佐野がコールされる。
中嶋監督もここで決める気だ。そうだ間違いない、ここだ、ここで決めろ。
しかし──勝ち星を分配する神がいるとしたら、そいつは相当に性悪である。
伏見は三振。続く福田は1ゴロで本塁封殺と、2死満塁となる。
こうなると前進守備は解除できる。
チャンスタイムは終わった。
ヒットゾーンは、さっきまでと比べると、まるで針の穴を通すほどにも狭くなったように見える。無論、体感的な話である。
こうなると「なんでも」というわけにはいかない。勿論四球はサヨナラになるのでストライクゾーンで勝負しなければならない状況は変わらないが、最後の1アウトは普通に打ち取ればいいという状況に変わったのである。
一打サヨナラの状況は変わらない。だから球場全体は熱を持っているのだが、しかしそこかしこに凌がれてしまうのかという落胆がぽつりぽつりとあった。
ソフトバンクの満塁策は実りつつある。
宗の得点圏打率は3割2分。70%近い確率でアウトと見るか、サヨナラの確率が30%近くもあると見るか。
ソフトバンクファンの祈るような表情。
凌いでくれという声が聞こえてきそう。一方のオリックスファンからは決めてくれという声が聞こえてきそう。
前進守備を解いたとはいえ、中村晃の表情は険しいまま。
期待と不安と祈りが入り混じってモヤモヤした空気と二遊間を、宗の打球が突き破った。
思わず私は立ち上がって手に持っていたハリセンを広げて大きく掲げ、小刻みにジャンプしながら、もみくちゃにされる宗を見ていた。
9/19(月) オリックス 6x-5 ソフトバンク